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Nov 17 2011

楽天レシピはなぜクックパッドに勝てないのか?(The reason Rakuten-recipe can’t beat Cookpad)

hiromikubota:

楽天レシピは2010年10月1日にオープンしました。レシピ投稿は50ポイントつくったよレポートはレシピ投稿者とレポート投稿者の双方に10ポイントが付与される仕組みでオープンしたことや(ポイントは楽天市場で1ポイント1円)、楽天が約7000万人の会員を持つ巨大プラットフォームであることから、「クックパッドを抜く」とまで騒がれたものです。(参考:cnet「『年内にクックパッド抜く』―楽天レシピ、ポイント連動で攻勢」

それも今は昔。いまさら誰も騒ぎませんが、楽天レシピがクックパッドに勝てる気配は見られません。

楽天レシピ http://recipe.rakuten.co.jp/

クックパッド http://cookpad.com/

(ともにDoubleClick Ad Planner推定値より)

ともに推定値で、楽天株式会社は楽天レシピについては情報をほとんど出していないので実数はわかりませんが、クックパッド株式会社はIR情報の説明資料を見れば、その安定成長ぶりは明らかです。特に有料会員は好調で、2012年4月期の四半期で5億4200万円の売上、プレミアムサービスが月額294円で計算すると、概算で60万人以上の有料会員がいることになります。広告・マーケティング支援事業の収入を有料の会員事業が上回っていることを知る人がどれぐらいいるでしょうか。いまやAttention(露出)の獲得よりもEngagement(関係性、絆、エンゲージメント)によってマネタイズする時代が来たのかもしれません。

■楽天レシピはなぜクックパッドに勝てないのか?

楽天レシピがクックパッドに勝てないいちばんの理由は、もちろんSEOでしょう。レシピ数と歴史で勝るクックパッドを検索順位で上回ることはかなり難しいと思います。また、株式の上場、企業との商品開発などを通じてオンラインからオフラインへ露出が増えていることも挙げられるでしょう。

それでもなお、一年前のあのとき「楽天レシピはクックパッドを抜くんじゃないか」と私たちを思わせたのは、「楽天スーパーポイント」という直接的な換金性が持つ動機づけの強さを知っていたからでしょう。約7000万人という会員に金銭的な動機づけで楽天レシピのサイトに誘導できる。全く同じ構造のサイトで同じレシピの投稿をするならお金にならないクックパッドより楽天レシピに投稿するに決まっている。これだけのアドバンテージがあればいくらなんでもクックパッドもやばいだろう。そう思っていたはずです。

ところが、楽天レシピはクックパッドを抜けなかった。その理由を考えていくと、「人間の動機づけとは何か?」という深い問いにつながっているのではないかと思いました。

■たのしい仕事を退屈なものに変えてしまう〈ソーヤー効果〉

もともとレシピの投稿は工夫のしどころが多い創造性の高い作業です。「どうやったら、おいしくなるのかな」「調味料の分量を変えてみるか」「こうしたらもっと時間短縮になるかもしれない」など、人によってはたのしい時間になるものだと思います。そうして考案したレシピをサイトにのせると、他のユーザーから「つくってみました」という報告がくるように楽天レシピ・クックパッドともにできています。そうした他のユーザーからのフィードバックは素直にうれしいものです。行動経済学者の言葉を借りれば社会規範に基づくインセンティブがうまく機能しています

ところが、楽天レシピはそこに「楽天スーパーポイント」という市場規範に基づくインセンティブが用意されています。「レシピ投稿は50ポイント、つくったよレポートはレシピ投稿者とレポート投稿者の双方に10ポイントが付与される仕組み」です。多くの心理学者や行動経済学者が実験で証明しているとおり、報酬が金銭的インセンティブに変わると、「たのしみ」でしていた作業は「報酬をもらうため」という別の動機づけに置き換えられてしまい、とたんに「たのしくなくなる」のです。

こうした外発的インセンティブがもたらすネガティブな影響について、言葉こそありませんが、ダニエル・ピンクが著書『モチベーション3.0』の中でマーク・トウェインの『トム・ソーヤーの冒険』におけるエピソードになぞらえて〈ソーヤー効果〉と呼んでいましたので、仮にそう呼ぶことにしましょう。

■ビジネスが陥りがちな罠

〈ソーヤー効果〉はビジネスにおける多くの場面で考えなければならない話かもしれません。実際に楽天レシピのサイトを見てみると、「レシピ投稿」ではポイント獲得を目的としているように見える料理の手順が一つしかないレシピ、また「“つくったよ”レポート」でも二重投稿に近いレポートなどが散見されます。そう感じられるのは全てではありませんが、少なからずそう感じられる部分に出会えば出会うほど、せっかく「たのしみ」で投稿した人が、「ああ、ポイント獲得の人たちか」と残念に思いサイトを離れていくことになり、残った人たちはポイント獲得に動機づけられている人たちが多くなるといったループが金銭的インセンティブに基づくコミュニティーを強化していきます。(注:楽天レシピのビジネスモデルを否定するものではありません。短期間にあれだけの集客力を獲得できた点や、多角的に収益を上げられる仕組みなど、個人的には優れたビジネスであると考えています)

短期的に見て外発的インセンティブが効果的なのは楽天レシピのオープン後の集客力を見れば明らかです(参考:ネットレイティングス「レシピサイトに参入した『楽天レシピ』が訪問者数を拡大中」)。しかし、また長期的に見れば外発的インセンティブが大きな効果を生まないことも明らかになってしまったのではないでしょうか。(もちろん、レシピ投稿に1000ポイントもらえるならば話は変わったかもしれませんね)

こうした意図に反する結果はCGMサイトに限らず、あらゆる事例に見られます。会員獲得など短期間で効果を上げるべきものならばOKかもしれませんが、長期的に顧客やユーザーとエンゲージメントを築くべきビジネスは、〈ソーヤー効果〉の罠に陥らないように気を付けなければなりません

■ゲーミフィケーションは動機づけ(インセンティブ)をめぐる議論

なぜこんな話をしたかといいますと、ゲーミフィケーションについて思いをめぐらせていたからです。ゲームのプレイは「たのしみ(Fun)」を動機づけとします。また、そのフィードバックがあるからこそ、またプレイしたくなるともいえます。レシピ投稿をプレイに見立てれば、「つくれぽ」「“つくったよレポート”」と「楽天スーパーポイント」はそのフィードバックとして捉えられます。ゲームの基本的な構造は「プレイ&フィードバック」のループ構造になっています。

また、そのフィードバックとなるインセンティブのデザインがゲームを長期的にたのしめるかどうかを決めます。そして、ゲームが私たちを驚かせるのは「カタチのないものになぜ人はお金を払うまで動機づけられるのか」という点でしょう。ソーシャルゲームがバーチャルなものへの課金で莫大な利益をあげている事実を知れば知るほど、その謎を知りたくなります。(参考:イン・ザ・ループ「【2011年11月最新版】直近決算発表に基づくmixi、GREE、Mobage、Amebaの業績比較」

フィードバックとしてのインセンティブのデザインを考えるにあたって、上記ようなマトリックス図を実験的に作成してみました。この図に基づけば、楽天レシピがとったポジションは「パーソナル×マネタリ―」のインセンティブで左上、クックパッドがとったポジションは「ソーシャル×ノン・マネタリー」なインセンティブで右下と対称的なポジションです。マネタリーであるほど短期に効果を上げ、ノン・マネタリーであるほど長期に効果を上げるのかもしれません。また、一部のRMT(Real Money Trade)を除けば、ゲームは基本的に「パーソナル×ノン・マネタリー」な左下のポジションをとっているといえます。フィードバックとなるインセンティブがノン・マネタリーだからこそ、ゲームは効果的なのかもしれません。こういったゲームやゲーミフィケーションをめぐる議論はまだこれからです。

■ゲーミフィケーションという言葉の定義にこだわない

クックパッドや楽天レシピをとりあげて「あれはゲーミフィケーションだ」などとことさら取り上げて、さも新しいかのように語るつもりはありません。ゲーミフィケーションのフレームワークは「人間の動機づけとは何か?」を議論するのに、とても直感的で便利だというだけです。ある現象を〈ソーヤー効果〉とラベリングしてみるようなものです。むしろ大切なのは言葉ではなくて中身です。ゲームを通じて得られるゲーミフィケーションのフレームワークを使うと、どういったビジネスの可能性や改善点が見えるのか。また、そのための仕組みはどうあるのがよいのか。本質的な議論がこれから日本でもっと盛り上がるといいなあと思います。なお、ゲーミフィケーションにまつわる話は過去のNOTEもご参照ください(参考:NOTE「進化するゲーミフィケーション」「なぜゲーミフィケーションは効果的なのか?」)。また、エンゲージメントとは何かを考える話も過去のNOTEをご参照ください。(参考:NOTE「ゲーム・チェンジ」

さて、ゲーミフィケーションの応用が可能だと考えられている分野を見てみますと、

・ローカルディール(店舗、位置情報系)

・Webコンテンツサイト

・エンタープライズ向け(会社と社員のエンゲージメント)

・医療/ヘルスケア/フィットネス

・教育

・環境/社会活動

・ライフスタイル

長期的な動機づけが求められる分野が多いことに気づきます。例を挙げればきりがありませんが、元Google HealthのAdam Bosworth氏は健康の維持増進のためのゲーム「Keas」をつくるにあたって、TechCrunchのインタビューで「人びとは、自分の健康を測定したり数値で把握したいとは思っていないことを発見した。そこでKeasをゲームにした。」「人は、データを保存することではなく、楽しいことを求めているのだ。」といった主旨の発言をしています。なお、個人用医療記録サービス「Google Health」がサービスを終了する決定を出していることは周知のとおりです。(参考:「元Google HealthのAdam Bosworthが“健康ゲーム”Keasを立ち上げ」

ゲームのようにプレイ(行動)を「たのしむ(Fun)」、ゲームのようにフィードバックがある、ということが求められる時代になったのだと思います。ゲーミフィケーションが登場した環境要因や、なぜ今ゲーミフィケーションなのかといった話はまたの機会としたいと思います。(むしろ1月に発売を予定している私が編集を担当している本を読んでいただく方がわかりやすいです。著者の井上明人さんはここらへんの説明が抜群にうまいです)

■【告知】「Gabe Zichermann氏来日イベント」

去る2011年9月15・16日、私は米国ニューヨークで行われた「Gamification Summit」に参加しました。そのチェアマンを務めたのがGabe Zichermann氏です。(写真壇上のスピーカーがGabe氏です)

Gabe氏はゲーミフィケーションの基本書ともいえる『Gamification by Design』の著者です。私にとっては、インセンティブのマトリックス図を考えるきっかけとなった本でもあります。

そのGabe氏が2011年11月25日(金)17時~19時、「gamification.jp」を運営する「株式会社ゆめみ」の主催で来日イベントを開催します。詳細は「gamification.jp」のこちらのページをご覧ください。料金は事前支払いで7千円です。そして、なぜか私もイベントに参加することになっています(笑)。それもこれもニューヨークの「Gamification Summit」でゆめみの深田さんとゲーミフィケーションについて議論を交わしたことがきっかけですが、微力ながら貢献できるようイベントについて告知させていただきました。

ただし、残席があるかどうか把握しておりません。告知ページを見るかぎり、まだ締めきっている様子はないので申し込めば大丈夫かもしれません。(断られたらごめんなさい、私の告知が遅いせいです…)

ちなみに無料で11月28日(月)に開催されるKDDI ∞ Labo open MEETing Vol.4 「ゲーミフィケーション」満席のようで…NOTEをご覧いただいているみなさま、告知が遅くて申し訳ございません。。。

ご連絡や感想はいつもどおりTwitter(http://twitter.com/ro_mi)やFacebook(http://www.facebook.com/hiromi.kubota)などを通じてお知らせくださいませ。事実誤認などあれば指摘していただけるとたいへんに助かります。すでにたくさんの方とNOTEを通じて交流をさせていただきましたが、また上記のイベントなどでお会いできることをたのしみにしております。オンラインとオフラインが行き来する、そんな時代をこれからもたのしみます。

(via tatsukii)

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    図がわかりやすい。
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